天国と地獄 بهشت و جهنم
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春がやってきた。
やわらかな陽光に誘われて、白く凍った海に小型雪上車を走らせる。まぶしく輝く氷山群をめぐるうちに、黒い点々が近づいてきた。
ペンギンだ。冬を南極圏で越し、日が長くなり始めた大陸沿岸に再び戻ってきたのだ。おどけた表情で、怖がらずにどんどん近寄ってくる。氷の上では天敵がいないため、人間にもまったく警戒心がないのである。
「また、かわいい写真が撮れる」
すっかり愉快な気分になり、昭和基地に帰った。支局のデスクに戻り、パソコンを開く。その途端、残酷なニュースの見出しに、思わず目を閉じてしまった。
「首を切られた遺体発見、バグダッド」
イラクで人質になっていた香田証生さん(24)が殺害されたという。犯行グループの要求はサマワに駐留する自衛隊の撤退。日本政府はそれを拒否したものの、有効な解放交渉ができないまま時間がすぎ、若く尊い命が奪われたのだ。
あまりの残虐さに、怒りがこみ上げてきた。
遺体が発見されたハイファ通り周辺はチグリス川を望む景勝地で、バグダッドが陥落した1年半前、何度も通った道だ。雄大な流れを眺めながら、現地通訳の若者が「大戦後の日本のように、イラクも平和になりますよ」と、笑顔だったのを思い出す。まさにその場所で香田さんが……。
この3年、戦乱の地を歩いてきた。20余年の内戦が終わったアフガニスタンの首都カブールは、古代遺跡のように廃虚と化していた。バグダッドでは至るところで爆撃の黒煙が上がり、昼夜を問わず、銃声が鳴り響いていた。
そして今、私の目の前では、ペンギンたちがピエロのように悠々と歩いている。まるで「天国と地獄」をさまよってきたような錯覚に陥る。
とはいえ、国際ルールで「国境のない平和な大陸」を実現したかに見える南極も、ほんの数十年前までは人間の欲望に翻弄(ほんろう)されてきた。毛皮や脂ほしさにアザラシやペンギンは乱獲され、絶滅の危機に追い込まれるところだった。列強の大国は先を争って白い大陸に足を踏み入れ、領土権を次々と宣言していたのである。
領土権の凍結、動植物の保護などを盛り込んだ南極条約で守られている理想郷に身を置いていると、香田さんを見舞った悲運は遠い世界の出来事のように感じる。 ...
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